主演する物語へ、自分の言葉を渡す
1991年5月21日、小泉今日子はシングル「あなたに会えてよかった」を発表しました。作詩は小泉自身、作曲と編曲は小林武史。歌う人と曲を作る人だけでなく、言葉と音の仕上げまで二人の名前が並ぶ作品です。
同年放送のTBSドラマ『パパとなっちゃん』では、小泉が田村正和とともに主演し、この曲が主題歌になりました。俳優として物語の中に立つ小泉が、自ら書いた詞を主題歌として歌う。その二つの仕事が一曲で重なっています。
ミリオンセラーになった主題歌
「あなたに会えてよかった」はミリオンセラーを記録しました。ドラマのための歌という枠を越え、多くの人へ届いた代表曲になっています。
ただし、その大きな数字だけでは二人の関係は見えません。作品の内側には、小泉の作詩と歌唱、小林の作曲と編曲という四つの役割があります。
一曲に集まった、三つの受賞
第33回日本レコード大賞のポップス・ロック部門で、この曲は三つの異なる角度から評価されました。
- 作品「あなたに会えてよかった」:ゴールド・ディスク賞
- 小泉今日子:作詩賞
- 小林武史:編曲賞
作品への賞、言葉を書いた人への賞、音を仕上げた人への賞。ひとまとめに「受賞曲」と呼ぶよりも、誰のどの仕事が評価されたのかを分けることで、この曲を作った関係がはっきり見えてきます。
28年後、別の声のためにもう一度編曲する
2020年、森七菜は歌手デビューシングル「カエルノウタ」に「あなたに会えてよかった」のカバーを収録しました。編曲を担ったのは、原曲の作曲・編曲者である小林武史です。
ソニー・ミュージックはこの版を、小林が28年を経て再び編曲したものと紹介しています。小泉のために作った曲を、今度は森の声へ合わせて小林自身が開き直す。カバーは原曲から離れる枝ではなく、作り手が再び曲と向き合った続きになりました。
歌が残した、役割の線
「あなたに会えてよかった」を辿ると、主演ドラマと主題歌、ミリオンセラーと賞、原曲とカバーが並びます。その中心にあるのは、小泉今日子が言葉を書いて歌い、小林武史が曲を作って編曲したという具体的な役割です。
大きな記録を入口にしながら、誰が何をしたかへ戻る。そして28年後、同じ編曲家が別の歌い手へ曲を渡し直す。この一曲は、ヒットの記録だけでなく、歌が人から人へ残っていく過程まで見せてくれます。