「10 years」の作詞は渡辺美里、作曲は大江千里。1988年のアルバム『ribbon』を締めくくるこの曲には、二人の名前が並んでいます。『ribbon』公式クレジット

大江が曲を作り、渡辺が言葉を書いて歌う。その関係は一曲では終わらず、「すき」「夏が来た!」、そして年月を経た新しい作品へと続いていきました。さらに、活動する場所も音楽の形も変わった後に、二人は歌とピアノで向き合います。

作品と本人たちの言葉を辿ると、そこには長い時間をそれぞれの道で歩きながら、音楽を通して再会してきた戦友のような関係が見えてきます。渡辺が語る大江の提供曲2023年の共演についての本人ブログ

デビューアルバムから続く名前

二人の作品上の接点は、「10 years」より前にあります。渡辺のデビューアルバム『eyes』は1985年10月2日発売。その中の「悲しいボーイフレンド」は、大江が作詞・作曲を手がけた曲でした。『eyes』の収録曲と原盤発売日作詞・作曲クレジット

渡辺は後年、『eyes』を振り返ったインタビューで、当時のエピックのプロデューサーが大江やTM NETWORKらを担当していたことを話しています。若い作り手たちとデビューの時期に出会い、その顔ぶれでスタートできたことを誇りに思っている、と。大江は、渡辺が歌手として歩き始めた頃からの音楽仲間でした。デビュー期を振り返る本人インタビュー

大江のメロディに、渡辺が言葉を重ねる

1988年5月28日発売の『ribbon』に収録され、同年10月には「君の弱さ」とともにシングルにもなった「10 years」。この曲では、大江のメロディを受け取った渡辺が歌詞を書いています。公式年表公式クレジット

渡辺によると、作詞の手がかりになったのは、大江が作ったスタッカートの譜割りでした。そこへどう言葉を乗せるかを考え、畳みかけるように書いていったといいます。完成した歌の言葉にも、相手の曲を受け取って応える過程が残っています。「10 years」の作詞について

1989年の「すき」も、作詞は渡辺、作曲は大江。曲だけを渡して終わるのではなく、渡辺自身の言葉が加わって一曲になる。その共同作業が、二人の代表的な作品を生んできました。「すき」のクレジット1989年の作品を振り返る放送後記

離れた場所で歩いても、また一緒に音楽ができる

大江は2008年に渡米し、ニューヨークでジャズを学び始めます。日本で歌い続ける渡辺とは、活動の場所も変わりました。大江の公式プロフィール

2011年4月5日、二人はニューヨークで東日本大震災のチャリティーライブを行います。渡辺が現地で声のトレーニングを予定していた時期に、大江から共演の連絡があり、実現したものでした。開催の経緯を語る渡辺のインタビュー

渡辺は、久しぶりの共演でも、それぞれが自分のやるべきことをしてきたからこそ役割を果たせたと振り返っています。互いの生き方を確かめ合ったようだった、という実感も語りました。同じ場所に居続けることだけが、長い関係を育てるわけではない。その共演は、二人が別々に積んできた時間を持ち寄る機会にもなっていました。共演後の本人の言葉

節目に届く、新しい歌

2014年4月23日、渡辺のデビュー30周年イヤーの第一弾シングルとして「ここから」が発売されます。作詞・作曲は大江。渡辺は、ニューヨークと東京に離れていても、今自分に歌ってほしいことが伝わってきたと話しています。これまでに書いてもらった曲はそれぞれタイプが違い、そこへまた新しい曲が届いたことにも感心していました。公式発売情報「ここから」についての本人インタビュー

2019年には、「すきのその先へ」が生まれます。発想の出発点は、スタッフからの「すき」のその後を知りたいという提案でした。1989年の曲から30年を経て、大江が新たに詞と曲を書き、渡辺が歌う。長く歌われた曲そのものが、次の共作のきっかけになったのです。制作の経緯を紹介した放送後記アルバム『ID』公式クレジット

「すきのその先へ」は2019年8月1日に先行配信され、同月7日発売の『ID』に収録されました。先行配信の公式発表

今度は、歌とピアノで

2023年5月3日発売の『Face to Face ~うたの木~』には、「maybe tomorrow duet with 大江千里」が収録されています。この共演で渡辺が担うのは歌、大江が担うのはピアノです。アルバム公式情報渡辺本人による担当の説明

大江は公式サイトへのコメントで、2022年の東京で再会して録音したことを明かしています。渡辺から歌いたいと誘われ、喜んで引き受けた曲でした。渡辺も、いくつもの時代を経ての共演として、今だからこそこの曲を一緒に演奏する意味を綴っています。大江の参加コメント渡辺の制作後の言葉

『eyes』で曲を託した頃から、「10 years」の共作、ニューヨークでの共演、そして歌とピアノの録音へ。渡辺美里と大江千里は、その時々の自分たちができる形で音楽を作ってきました。

「10 years」を聴き返すとき、その後にも続いた二人の歩みを思い浮かべたくなります。あの曲を書いた二人は、年月を重ねてからも、また一緒に演奏する曲を選んでいるのです。