坂本真綾の歌を聴いて、作曲者の鈴木祥子へ辿る。そして鈴木が歌う同じ曲から、坂本の書いた言葉へ戻る。「さいごの果実」には、そんな往復のできる二つの録音があります。原曲の公式情報・セルフカバーを収めた『REQUEST』
二人の関係の入口は、その少し前、2005年の『夕凪LOOP』にありました。曲を受け取った歌い手と、その声を知って次の曲を書く作り手。三つの曲を通して、そのやり取りを辿ります。
歌いたいと思った「NO FEAR/あいすること」
『夕凪LOOP』は、坂本が菅野よう子との制作から、さまざまな作家の曲を歌う体制へ踏み出したアルバムです。鈴木への依頼から生まれた「NO FEAR/あいすること」のデモを聴き、坂本はすぐに歌いたいと希望したと振り返っています。二人が語る制作の始まり
「NO FEAR/あいすること」は、鈴木が詞と曲を書き、編曲まで担当した一曲。2005年10月26日発売の『夕凪LOOP』に収められました。発売日と収録曲・曲別クレジット
坂本は後にこの曲のピアノ弾き語りにも取り組みます。転調の多さよりも、この曲を自分で弾きながら歌ってみたいという気持ちが先にあった。その経緯を二人が話す対談からは、受け取った曲を、自分の演奏でも表現しようとする坂本の姿が見えてきます。弾き語りについての本人対談
声を知って書く「ユニバース」
次に辿りたいのは、2007年3月21日発売の『30minutes night flight』に入った「ユニバース」。今度は坂本が作詞、鈴木が作曲を担当しています。作品の公式情報
鈴木は、坂本の広い音域と、どの音域でも声の美しさが保たれる点を生かそうとしたと説明しています。一方の坂本は、その旋律だからこそ、自分の考える孤独を必要以上に暗くせずに表せると感じた。声を思い浮かべて作った曲に、歌い手自身の言葉が重なる制作でした。「ユニバース」を語る二人
「NO FEAR」では鈴木の詞と曲を歌い、「ユニバース」では鈴木の曲に坂本が言葉を書く。同じ二人の組み合わせでも、クレジットを見ながら辿ると、それぞれが担う表現の違いに気づきます。
「さいごの果実」を、作曲した人が歌う
2007年11月21日には、坂本版「さいごの果実」が発売されました。こちらも作詞は坂本、作曲は鈴木。原曲の編曲を手がけたのは斎藤ネコです。シングルの公式情報・原曲とカバーのクレジット
2015年4月22日、坂本の20周年を記念するトリビュート盤『REQUEST』で、鈴木はこの曲をセルフカバーします。鈴木版「さいごの果実」では、歌唱と編曲を鈴木自身が担当。初回限定盤には、同じ曲順で坂本の原曲を並べた『ORIGIN』も付いていました。一つの曲の異なる姿を、行き来しながら聴ける構成です。『REQUEST』の公式案内
鈴木は公式コメントで、歌って初めて、この曲を実存についての歌だと感じたと書いています。平均律とは異なるバロック時代の調律を用い、終盤にはバッハの『FUGUE IN G MINOR BWV.578』の冒頭主題をニ短調に移して置いたとも説明しています。鈴木祥子によるセルフカバーの解説
自分で作曲した曲でも、坂本の言葉を自分の声で歌うと、新たに受け取るものがあった。二つの「さいごの果実」を聴くときは、歌声に加えて、鈴木が語った結びの部分にも耳を向けてみたくなります。
鈴木祥子から、もう一つの共作へ
鈴木は自ら歌い、ピアノやドラム、ギターを演奏する一方、小泉今日子や坂本真綾らに詞曲を提供してきた音楽家です。鈴木祥子の公式プロフィール
その仕事から、おとたどりの別の道へ進むなら、SOYの「恋に似ている」もあります。この曲では鈴木が作詞、佐橋佳幸が作曲、山弦が編曲を担当しました。『SOY 2』の曲別クレジット
坂本真綾の歌から鈴木祥子へ、鈴木の書いた言葉から佐橋佳幸と山弦へ。次は高野寛と山弦、そしてSOYを辿る記事で、その先のつながりを辿れます。