山下達郎と大貫妙子。それぞれのソロ作品から二人を知った人が、同じバンドにいた頃の音楽へ戻ると、歌い手が入れ替わるたびに、もう一人の違う顔が見えてきます。
1975年4月25日に発表された『SONGS』は、シュガー・ベイブが残した唯一のオリジナル・アルバム。山下が歌う「DOWN TOWN」、大貫が歌う「蜃気楼の街」、そして二人の声が並ぶ「すてきなメロディー」。三曲の担当を辿ると、同じバンドの中で曲を書き、互いの歌を支えていた関係が見えてきます。
自主制作盤とセッションから始まったバンド
山下の公式年表によると、1972年に友人たちと制作した自主制作盤『ADD SOME MUSIC TO YOUR DAY』が、大貫らと知り合うきっかけになりました。1973年、シュガー・ベイブを結成。同じ年に大滝詠一とも知り合い、はっぴいえんどの解散ライブで、大滝のバックコーラスを務めます。
レコードを作ること、人に聴いてもらうこと、一緒に演奏すること。そのつながりが、次の音楽の場を開いていきました。結成時のメンバーは、山下と大貫に、ギターの村松邦男、ベースの鰐川己久男、ドラムの野口明彦を加えた五人です。
その後、伊藤銀次、寺尾次郎、上原裕も参加しました。バンドの歩みの中でメンバーが替わる一方、録音された曲の担当は曲ごとに残っています。名簿と演奏クレジットを重ねて見ると、一枚のアルバムにも複数の時期のつながりがあることがわかります。
「DOWN TOWN」――歌を囲む鍵盤とコーラス
「DOWN TOWN」は、伊藤銀次が作詞、山下が作曲し、山下がリードボーカルを取る曲。大貫はエレクトリックピアノとバックボーカルで加わっています。
大貫の公式作品ページを見ると、村松はギターとバックボーカル、鰐川はベース、野口はドラム。山下自身もギターのほか、クラヴィネットやハモンドオルガンなどを担当しています。
ここで大貫を、もう一人の歌手としてだけ捉えると、鍵盤でバンドを支える役割を見落としてしまいます。歌の前に立つ人と、その周りで音を重ねる人。別の曲では、その位置が入れ替わります。
「蜃気楼の街」――大貫の歌に、山下が重ねる音
「蜃気楼の街」では、大貫が作詞・作曲し、リードボーカルとアコースティックピアノを担当します。山下が加わるのは、アコースティックギター、トライアングル、バックボーカルです。
この曲のドラムは上原、ベースは鰐川。村松もギターとバックボーカルで参加しています。「DOWN TOWN」とは歌い手だけでなく、楽器の組み合わせやドラムの担当も異なります。
一人が書いた曲を、一人だけで完成させるわけではない。大貫の歌を山下が支え、その背後には村松、鰐川、上原の演奏がある。曲ごとのクレジットを入口にすると、二人の関係からバンド全体へ、聴く関心を広げられます。
「すてきなメロディー」――二人の名前が並ぶ曲
二人が共同で作曲しているのが「すてきなメロディー」です。作詞は伊藤銀次・大貫妙子・山下達郎の三人。そしてリードボーカルにも、大貫と山下の両方の名前が記されています。
大貫のピアノ、山下のギターとオルガン、村松のギター、鰐川のベース、上原のドラム。その上に二人の歌とバックボーカルが重なります。さらに大滝詠一がベースボイスで、稲垣次郎がテナーサックスで参加。曲を書く人、歌う人、演奏で加わる人のつながりが、一曲の中に集まっています。
『SONGS』のプロデュースは大滝と山下、全曲の編曲は山下です。一方、「ためいきばかり」では村松が作詞・作曲・リードボーカルを担当しています。山下と大貫を入口に聴き始めても、そこから別の作り手の歌へ辿れるのが、このバンドの面白さです。
解散の先にも残った『SONGS』
1976年にバンドは解散し、二人はそれぞれソロへ進みます。山下は『CIRCUS TOWN』、大貫は『Grey Skies』でソロデビュー。ともに『SONGS』でのレコードデビューとは分けて記録されています。山下の年表と大貫のプロフィールにも、その歩みが残っています。
2025年には『SONGS』50周年記念盤が発売されました。ボーナスディスクに収められた1994年の「TATSURO YAMASHITA Sings SUGAR BABE Live」は、山下が後年のバンドとシュガー・ベイブの曲を演奏した記録。シュガー・ベイブ自体の再結成公演とは区別して聴きたい音源です。
そのライブのギターには、佐橋佳幸の名前もあります。大貫からは、矢野顕子や奥田民生らと共演した「LIVE Beautiful Songs」の記事へ。大滝からは、細野晴臣と松本隆を辿るはっぴいえんどの記事へも、音楽の道が続いています。
まずは「DOWN TOWN」と「蜃気楼の街」を続けて聴き、それから「すてきなメロディー」へ。同じ二人が、曲によって違う役割で関わる。その往復を楽しみながら、気になった声や楽器の名前から、次の一曲を探してみてください。