自分たちの歌を、ほかの音楽家に預けたらどうなるだろう。
スキマスイッチの『re:Action』は、そんな問いから辿れる一枚だ。2017年2月15日に発売されたアルバムには、外部の12組によるプロデュースと、スキマスイッチ自身が手がけ直した「奏(かなで)」を合わせて13曲が並ぶ。
歌を作った二人と、その歌を受け取った音楽家。曲ごとの担当を見ていくと、一枚のアルバムから、いくつもの共演や制作のつながりが見えてくる。
奥田民生に預けた「全力少年」
入口になるのは、アルバムに先がけて2016年11月30日に発売された「全力少年 produced by 奥田民生」だ。2005年の原曲とは別に、奥田のプロデュースで録り直された版である。
USENのインタビューで大橋卓弥は、曲より先に奥田民生へ依頼することが決まり、その後に代表曲の「全力少年」を選んだと話している。二人は学生時代からユニコーンを聴いていた。
奥田に伝えた希望の一つは、歌を録り直すこと。演奏も奥田自身が担う形になり、コーラスも加わった。誰かがスキマスイッチの歌を代わりに歌うのではなく、大橋が歌う場所を、別の音楽家が組み立てる。ここに、このアルバムの面白い関係がある。
奥田が演奏まで手がけるつながりは、浜田雅功「春はまだか」の記事からも辿れる。歌う人が変わったとき、同じ作り手がどんな役割を担うのか。二つの作品を並べて眺める入口になる。
13曲と、それぞれの制作担当
公式の曲別表記をもとに、収録順に並べた。「奏(かなで)」だけは、外部のプロデューサーではなくスキマスイッチ自身による再制作だ。
- 01 全力少年 — 奥田民生
- 02 僕と傘と日曜日 — 田島貴男(ORIGINAL LOVE)
- 03 フィクション — フラワーカンパニーズ
- 04 ユリーカ — GRAPEVINE
- 05 マリンスノウ — TRICERATOPS
- 06 Ah Yeah!! — 澤野弘之
- 07 奏(かなで) — スキマスイッチ〈re:produced〉
- 08 晴ときどき曇 — BENNY SINGS
- 09 君のとなり — 小田和正
- 10 ふれて未来を — 真心ブラザーズ
- 11 ゴールデンタイムラバー — RHYMESTER
- 12 冬の口笛 — SPECIAL OTHERS
- 13 回奏パズル — KAN
これはプロデュースの一覧で、各バンドの全員が、すべての楽器を演奏したという意味ではない。曲ごとの歌唱や演奏は、担当を確認できた出典から分けて辿りたい。
たとえば「フィクション」について、大橋はフラワーカンパニーズとスタジオでセッションし、バンドに加わったような楽しさがあったと振り返っている。一方、「晴ときどき曇」では二人がオランダへ赴き、BENNY SINGSのもとで録音。大橋は曲を通して歌ういつもの方法と異なり、部分ごとにテイクを仕上げる経験をした。アレンジだけでなく、制作の進め方にも出会う企画だった。
小田和正と作り直した「君のとなり」
「君のとなり」は、『クリスマスの約束』で生まれた曲を、アルバムに向けて組み直したもの。常田はPOPSCENEのインタビューで、テレビで歌うために作ったときとは別に、改めて構築し直す提案が小田からあったと説明している。
同じインタビューでは、松たか子のコーラス参加も語られている。曲を受け取った小田が、もう一人の歌い手を招く。スキマスイッチと小田の間に始まった制作が、松の声へと広がっている。
番組で音楽家が集まる場面は、『クリスマスの約束2009』の大メドレーの記事でも紹介している。ここでは、その番組から続く関係が、一曲の録音へつながっている。
KANが26曲から組み立てた「回奏パズル」
最後の「回奏パズル」は、一曲をそのままリアレンジする方法から、さらに踏み出している。
KANの公式ディスコグラフィーによると、スキマスイッチの既発曲の歌詞とメロディを素材に、26曲のフレーズから別の一曲へ再構築した作品だ。KAN自身の担当は、再構築・編曲と記されている。
二人は、KANがコンサートの曲をダイジェストでつないで演奏することを知っていた。そこから、自分たちの全作品を素材に、新しい曲を作ってもらう依頼へ進んだという。どの曲を任せるかだけでなく、曲をどう扱ってもらうかまでが、相手との関係から生まれた。
KANと平井堅の記事では、KANが他の歌い手へ曲を託す関係を辿っている。「回奏パズル」では、相手がすでに作った曲を受け取り、新たな形にする側のKANが見えてくる。
自分たちの手に戻る「奏(かなで)」
外部の音楽家に交じって、「奏(かなで)」は二人自身が再制作している。本人の説明では、映画『一週間フレンズ。』で使われた版は当時の歌声を残して伴奏を作り直したもの。『re:Action』の版では、さらにアレンジを変え、歌も録り直した。映画版とアルバム版は同じ録音として扱えない。
初回盤には、再制作のもとになった11曲のオリジナル音源を収めたボーナスCDも付く。「君のとなり」「回奏パズル」は、その11曲には含まれない。
原曲を知る人は、曲から作り手へ。奥田、小田、KANを知る人は、その人が関わった曲からスキマスイッチへ。一枚を順番に聴く楽しみとともに、好きな音楽家の名前から辿り直す楽しみもあるアルバムだ。
スキマスイッチの二人が別の音楽家と同じステージに立つ関係は、ap bank fesの記事へ続いている。